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徳次はきまり悪げに、しかし、又あのきよろりとした眼つきにかへりながら云つた。
「あれは本当ですかね、相沢さんが訴訟を起したと云ふのは?」
「ほらね、かういふ形のと、又別にかういふのがあるだらう」
「やあ、今晩は」
「なんですよ、あんまり貴方あなたの評判がいゝもんですから、さういふ方ならぜひ一度自宅うちでも診ていたゞきたいと思ひましてね」
と、加藤巡査はくり返した。
「ねえ、高間さん。どうもこの追鮎は背中に掛り傷があるんで元気がないですよ」
男は眼を閉ぢたまゝだつた。
「いや、あれは私が勝手に頼んで来てもらつたんですからな、御心配はいりませんよ」
「さつき、はじめは、はてな、見慣れない男がいるな、と思つたくらいですからな」
右手の台所の方ではしきりと物音がしていた。道平より先に朝早くから手つだひに来ている房一の義母と、まだ結婚して間もない盛子とが土間を掃いたり戸棚を拭いたりしているのだつた。
と、何か威勢よく云ひかけたときだつた。小谷は急に聞耳をたてた。小谷ばかりではない、房一も――半鐘が鳴つていた。たしかに!それは、はじめ三連打を二度ほど、ちよつと途切れ、次には聞えにくいほど鳴り、そして急に勢よくつゞけさまに鳴り出した。ちやうど、それは焔の燃える様子と緩急を合せたやうに、まざまざと目に見せるやうに響いた。
「袴はそこですよ。足袋を先きにはくのよ」