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「さつき、河原で、先生に会つたんでさあ。――往診に出かけなさる途中でね」
それから上着を脱ぐと、ワイシャツの袖をまくり上げて、診察にかゝつた。無造作にひよいと病人の瞼をつまみ上げ、めくつて、眼の色を調べた。半裸体のむき出しになつた腕をつかんで静かに屈伸させた。顔面の皮膚をひつ張る、足を立てさせる、今度は足の裏を見る、――それはまさに手慣れた、素速い、注意深い動作だつた。まさしく、医者といふものだつた。
と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。
「まだ?ふん!よせ、よせ。阿呆らしい」
「さうですよ、ですが、何年ぶりでせう。これがもつと他の所だつたらおたがひ気がつかなかつたかもしれませんよ」
「はあ、見て参ります」
かりるに当って女房が挨拶に行ったら、温泉のぬるいことを例外なく念を押して、
「さうですか。それは――」
「あなたの追鮎は元気らしいなあ」
「ね、君」
並んで立つと、いきなり
「いゝや、まだ」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。